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七月のなまけもの
七月のなまけもの

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2026年4月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

#語彙トレ2026 『雪が解けて春になる』番外編 04/01~04/10分です。
灰君が一旦終息したので、北の大陸の番外編を始めました。
GWの文フリで刊行する下巻の範囲に足を突っ込んだ話が多いのは、上巻範囲縛りにすると、掘り下げる事が少ないからです!

04/01-鮮烈
『私はこの世界「アルファズル」で起きた、大きな戦乱と、その先にある始祖種と神の戦いを、生涯を懸けて、物語として記すことにした。
 その為に、東西南北四つの大陸を旅し、現地のひとびとから伝説を語り聞いて、懸命に書き留めた。
 北の大陸フィムブルヴェートで聞いた伝承も、始祖種ダイナソアの竜兵と人間の王子の愛の物語は、私の心に鮮烈な印象を焼きつけた。
 しかし、それは本伝「雪が解けて春になる」に書くとして、この番外編では、本伝で語られることの無い小さな出来事を記してゆこう。』
(シフィル・リードリンガー著『アルファズル戦記 異聞録』)

04/02-呪文
 呪文のように繰り返された。
「そなたは英雄リヴァティの正統なる子孫。生まれながらにしての王の器なのですよ」
 だから傲然とあった。なのに格下の連中は自分を恐れて離れていった。
「下々の顔色など疑わなくて良いのです。失礼な者は切り捨てなさい」
 言われた通りにした。誰も自分をまっすぐに見なくなった。正面から見てくるのは、弟だけになった。
「あのような下賎な血を引く者と、そなたが、対等などとあり得ないのです」
 心地の良い呪いの言葉にすがった。
 結果、母は毒の入った茶を飲んでひっくり返った。
 命じたのは自分だ。
 ああ、やっと解き放たれる。

04/03-追憶
 母の祖国へ、一度だけ行ったことがある。叔母を埋葬するためだ。彼女が悪意を受け続けた国に弔うのは嫌だと、母が言ったのだ。
 薄ピンクの桜が舞う中、母方の祖父が立ち会った。叔母は庶子で皇女とは認められなかったが、祖父はきちんとこのひととその母親を愛していたのだと思い知った。
 墓石の前で、はなをすすり上げながら泣く、幼い従弟の手を握り、この子は自分が守らないといけないと誓った。自分に優しかった叔母の分まで。

 なのに。

 兄の凶刃の前に、従弟は桜のように儚く散った。
 追憶の中で、あの子は今も朗らかに笑っているのに、もう握る手はここに無い。

04/04-摩耗
「お前は本当に馬に乗るのが下手だな」
 親友兼相方のマイケルに馬上から見下ろされて、ニーザは軽く舌打ちした。
「なんでお前はそんなしれっと乗りこなしているんだ」
 主君のヒオウ王子さえ、やんちゃな馬に振り回され、手こずっている。ニーザに至っては、何回振り落とされたかわからない。心が摩耗して折れても仕方無いくらいだ。
 なのに、このなんでもそつなくこなす幼馴染は、主君の先すら超えて、馬をどうどうとなだめている。
『マイケルは本当にすごいな』
 お世辞でもなんでもなく、あるじは言うのだ。
『ニーザも。よく諦めない』
 本当に、悪気が無いから、困ったひとだ。

04/05-逆説
「おはよう、コウ」
 やたら野太い声が聞こえる。自分をその名で呼ぶ者は、ひとりしかいない。
 振り返ると、筋骨隆々として、自分より背の高くなった、銀の髪に金の瞳の竜兵が、軽々と自分を抱き上げた。
「ゼファー!?」
 驚いた自分の声が高い。
「はは、コウは可愛いね」
 言われて自分の身をあらためる。髪が伸びて、男には無い凹凸がある。
 悲鳴をあげたところで、寝台の上にがばりと起き上がって目が覚めた。
「願望が逆説的に叶った夢じゃないですか」
 あまりにもあんまりだったので、軍師にこぼしたら、彼は腕組みして『そんな話を俺にするな』とばかりにうんざりしていた。

04/06-桎梏
『隷属国の娘の子が、王子面をして』
 血筋を尊ぶ連中は、そう言って嗤った。
『あなた様こそが、この国の希望なのです』
 民は兄のいない隙に、すがりついてきた。
 どう足掻いても自由にならない、桎梏で雁字搦めにされた人生で終わるのだと思っていた。
 それなのに。
「コウ!」
 君が私のもうひとつの名前を呼ぶ度に、どれだけ嬉しくなったことか。その笑顔に、磨り減った精神をどれだけ救われたことか。
 だから、君の力になろう。若くして大陸の命運を背負った君の槍に、盾になって、守り抜こう。
 幼い頃、誰かを守ることの大切さを教えてくれた、君のために、この命を懸ける。

04/07-沈殿
 母の言葉は呪いだった。
『神にもなれる血筋なのに、兄の役にすら立てないとは、そなたは失敗作であることよ』
『ああ、ああ、あの女の息子のようにうざったい。その顔をわたくしに見せるでない』
『おまえなぞ、産むのではなかった』
 自分勝手な言葉は、わたしの心の泉に、毒を沈殿させていった。
 王宮の奥に押し込められて、使用人にも無視されて、泣いてばかりの日々。

『ぴいぴい泣くな。うっとうしい』

 そうぶっきらぼうに言いながら、白い薔薇を手折って差し出した兄の顔は、逆光でどういう表情をしているかわからなかった。
 だけど、たしかに彼はわたしの太陽になった。

04/08-昏迷
 この大陸は、ひとを『鬼』にする『霧』に覆われている。いつからそうなのかわからない。ただ、かつて外の大陸との交流はあり、『霧』によってそれが全て遮断されたのはたしかだ。
 僕の叔母も、水を汲みに行って、うっかり『霧』に触れてしまった。叔父がどんなに呼びかけても、昏迷に陥ったように応じず、虚ろな顔は次第次第に白く変わっていった。
『娘にこんな母親を見せるくらいなら』
 叔父は剣を持ち出し、反応しない叔母を斬った。白い血を噴き上げながら仰向けに倒れてゆく叔母は、ひとならざる顔で、ゆるりと優しく微笑んで。
『……ゴメンネ』
 と涙一筋をこぼした。

04/09-逸脱
 竜族は、過ぎたる力を持ってこの大陸を脅かす、摂理から逸脱した存在だと、ひとびとが騒いだ時代があった。
「まだ、竜族が始祖種の代わりに大陸の守護者として生まれたのだと、認識されてない頃だったからね」
 湖畔で語る竜王の言葉に、幼い竜兵達は表情を曇らせる。
「だが」
 美しい竜王がぱちんと指を鳴らすと、湖面が波立ち、獣の姿を取った。
「『竜王に害意がある者を決して通さない』この湖が、こうして不届き者を追い返し、当時の竜王を守ったのだよ」
「やはり竜王様はすごいんですね!」
 興奮気味になる竜兵の長兄に、竜王はゆるりと笑み返してみせた。

04/10-郷愁
 ノスタルジア、という地域がある。郷愁の名を冠したその地には、古くから吸血鬼が棲んでいた。
『鬼』とは異なる生態系を持ち、『鬼』とは違ってひとの姿に近く、理性も保っている。だが、ひとの血を好んですすり、不死者の眷属を増やすあたりは、フィムブルヴェートのどの種族とも違う。
 彼らがどこから来たのか。『霧』に閉ざされた世界では最早わからない。たしかなのは、彼らがひとに害をなす脅威であることだけだ。
「……害獣と同じだな」
 心臓を貫かれて朝日に溶けてゆく吸血鬼を、蒼い瞳で見下ろしながら、吸血鬼狩りの青年は、仕込み杖の刃についた血を振り払って、納刀した。畳む


#アルファズル戦記
#雪が解けて春になる

ひとりごと2026年,創作,小説

2026年3月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

ポメラのアルファズル番外編フォルダを漁ってたら、全く記憶に無い、西の大陸の番外編がぽろぽろ出てきた。
大体は途中で止まってて、何をしたかったのかわからないんだけど、ひとつだけ、イリスとアッシュの、使えそうな完成品があったので、どこかで無配とかに収録しようと思います。

いやほんと忘れてた。最近は雪春ばかりでほんと忘れてた!

#アルファズル戦記

日記,ひとりごと2026年,創作

#雪が解けて春になる ゼファーとヒオウの漫画を、また描いていました。
1日ゆっくり休むはずが、1日中ずっと描いていました 眼精疲労すごいですおろか! でも楽しかった!

丁度上巻と下巻のあいだくらいの時間軸です。
性別未分化で、ここまでヒオウを骨抜きにしているゼファーは恐ろしい子だと思います。

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#アルファズル戦記

創作,マンガ

ブルスカでお題連載していた #語彙トレ2026 『灰になるまで君を呼ぶ』03/11~03/20分にて、本編完結いたしました!

FIND THE WAYが流れ出しそうなくらい半端な締め方ですが、この終わりはもう、先月、中盤を書いているあたりから想定していました。
長編に直す時が来たら、じっくり考えます。

前回→624
続き→640


03/11-残響
『わたくしは、アグレイシア第一皇女レイティス・ナディア・アグレイシアです。LINKSの皆様のお力を借りて、今、皆さんに語りかけています』
 三国救難チャンネルを使ったレイティスの言葉は、煙を立てる都市に、煤まみれの顔の人々の耳に、残響を伴って広がる。
『この戦争は、三国の野心を抱く者達が皆さんを煽動し、泥沼化させました。ですが』
 一瞬息継ぎをして、皇女は続ける。
『終わらせるのも人の力だと、わたくしは信じております。現に今、わたくしの大切な仲間が、「終焉の獣」に立ち向かっています』
 マイクに向かう凛とした横顔に、マオは思わず見入っていた。

03/12-耽溺
『皆さん、どうか、目の前の事実に目を向けてください。野望に耽溺する者の、甘い言葉に踊らされず、目にしたものを信じてください。その為にも、まずは隣人を救い、手を取り合ってください』
 皇女の言葉に、ただ迫り来る恐怖にとらわれていた人々が、顔を見合わせ、手を伸ばす。
「誰か、手を貸してくれ! 助けるぞ!」
 足が瓦礫の下敷きになって動けない女性を、人が集まって救い出す。
 彼らの見上げる先には、『鋼鉄の鳥』が翼を広げている。そこから『終焉の獣』アヌナークに乗り移るふたつの人影があるのを見届けた者は、ほとんどいなかった。

03/13-慈雨
 干天の慈雨だ。ジークハルトは唇の端を持ち上げた。
「み、皆さん! 騙されないで! わたくしが!」
 慌てて取り繕うが、所詮ブリームの愛人だった下級貴族の女に、本物の皇女を超える言葉は出せまい。
「黙れ、馬鹿者が!」
 ぱん、と乾いた殴打の音が響く。
「役に立つかと目をかけてやれば、肝心なところでしくじりおって! 皇家を乗っ取る計画が台無しだ!」
 ブリームは女を罵る。愚かの極みだ。
「まだ放送が入っていることをお忘れか?」
 ジークハルトの揶揄に、宰相ははっと放送機器を振り返る。
「咎人の断末魔を、アグレイシアの民に」
 鋼の刃が、振り上げられて。

03/14-変貌
 迷宮のようなアヌナークの体内を、ディックスとティナは駆け抜ける。普通の廊下に見えた通路が、侵入者を関知して防衛機構が作動し、生き物のように胎動して、迎撃システムがずらりと並んだ、獣の腹の中のごとくに変貌する。
 放たれた光線を転がってかわし、起き上がり様に銃弾を撃ち込む。一撃は鋭く防衛機構を穿つ。ティナが一睨みしただけで砲口は凍りついて沈黙する。
 身体の奥で血が騒ぐ。この奥に、いる。
 血を分け合ったきょうだいが。アヌナークの核が。
「ディックス!」
 思考を逸らした瞬間、ティナが珍しく感情的に叫ぶ。目の前に飛び出した彼女の脇腹を、光線が貫いた。

03/15-興趣
「ティナ!」
 血を吐いて倒れ込む幼馴染の身体を支える。長年の反射で、傷口を凍りつかせて血を止めたようだが、傷の深さは誤魔化せまい。
『興趣があるだろう?』
 奥の扉から女の声が聞こえる。
『愛する女の命が尽きる前に、「私」を撃たねば、世界が終わるぞ』
 ティナを横抱きにしたまま、扉へ向かう。扉はディックスを待っていたかのように自動で両開きになる。
 そこにあったのは、脈打つ巨大な心臓、アヌナークの核。そしてそれに下半身が埋まり込むように同化している、赤い髪の女性。
「……ミランダ姉さん」
 名を呼べば、核は、あかい唇をつり上げてにたりと笑った。

03/16-凛冽
 炎が鞭のようにしなって襲いかかってくる。ティナを抱いたままではまともに戦うことができない。
「……ディックス」
 逡巡していると、幼馴染が必死に声を絞り出した。
「このまま、核のそばへ。私が、一撃叩き込んで、あなたが撃つ、隙を作る」
 彼女にこれ以上の無茶はさせたくない。命にも関わるだろう。だが、それ以上の最善の策も無い。ひとつうなずくと、床を蹴った。
 ミランダは最早自我が無いのか、高く笑いながら炎を振り回す。かわせるものはかわし、かわしきれないものは甘んじて食らって、アヌナークの核に肉薄する。
 ティナが手を伸ばす。凛冽な一撃が、核を凍らせた。

03/17-穿つ
「ありがとう、ティナ」
 幼馴染に静かに礼を述べ、彼女を片腕に抱いたまま、銃を取り出し、アヌナークの核に向ける。
「……ディッ……クス」
 ぽろぽろと氷の破片を零しながら、アヌナークの核が、いや、ミランダが、弟の名を呼んだ。
「マルディアスの未来を、あなたの手で」
 ミランダが微笑む。幼い頃自分に向けてくれた、あの無邪気な笑顔で。
 手が震える。銃口がぶれる。
 だが、やり遂げなくてはならない。レイティスが望み、LINKSが守ろうとし、自分が開く、未来のために。
「……姉さん」
 小さく呟く。
「さよなら」
 銃声が響き、そして、核の額を穿った。

03/18-堆積
 アヌナークの攻撃で溶け落ちた建物の残骸が、土砂のように堆積している。そんな中でも、人々は手を取り合い、助け合い、必死に生き延びようとしている。
 完全に動きを停止して彫像になった『終焉の獣』から、ディックスは足を踏み出した。
『よくやった、ディックス』
 ギルガメッシュの通信が入る。
『私の心残りもようやく片付いた。エンリルの中で永い眠りにつくよ。「鋼鉄の鳥」が再び必要となる日まで』
「……ああ」
 ぼんやりと返事をして、付け加える。
「おやすみ、父さん」
 それきり通信が切れる。
 腕の中の、完全に生命活動を凍らせた幼馴染に視線を移した。

03/19-虚飾
「ティナ、終わったよ」
 固く瞳が閉じられた幼馴染に呼びかける。そうすれば目を開いて、自分をその目に映し出してくれるのではないかと期待して。
 だが、現実は残酷だ。
 三国上層部の虚飾に満ちた野望の果てに、大陸は大きく破壊され、国家は機能をなさず、愛する人は。
「ティナ」
 名前を呼ぶ。何度も。ぽたぽたと涙が零れ落ちる。たとえ自分が燃え尽きて灰になってもかまわない。ヴァーンの炎が、彼女に命の灯火を与えてくれるなら。
『大丈夫、ディックス』
 姉の声が聞こえた気がした。かと思うと、冷たかった頬に赤みがさす。
 長い睫毛が震えて、黒い瞳がその下から現れた。

03/20-陽炎
 奇跡は起きた。
 アグレイシア皇女が終戦を宣言する放送は、三国救難チャンネルで流れ続ける。
 今はまだ、陽炎のように儚い希望でも、いつか必ず大地は息を吹き返し、花を咲かせるだろう。人々は生きることを諦めず、国を越えて手を握り合うだろう。
 東の空が白んでくる。マルディアスの大地に新しい朝がやってくる。
 灰になるまで呼び続けた声は、愛しい人を呼び戻した。この先彼女がどれだけ生きるかなどわからない。それでも、彼女が、生きていて良かったと最期に笑えるように、寄り添っていよう。
『皆さん、おはようございます』
 レイティスの声が、明るく響き渡った。畳む


#アルファズル戦記
#灰になるまで君を呼ぶ

創作,小説

昨日の #雪が解けて春になる 漫画ですが、ヒオウの服の襟を盛大にコマごとに間違えてることに気づきました!
記憶力無いとこれだよ!! 髪の毛はできるだけ同じになるように注意してたのに! 椅子や窓の高さもなんとなく考えてたのに!!

いうて、昔漫画を描いていた頃は、パースとか遠近法とかバランスとか、なーんも考えずに勢いで描いてたし、「引きの絵を描くといいですよ」とアドバイスをいただいたので、精進します。

精進するほどまた漫画を描くの???

ひとりごと2026年,創作

3/10から、雪春の漫画なんて突然描き始めていました。
習作文章を4ページに抜き出したのですが、小説とマンガのセリフ量の差よ! かなり削りました。
表現が変わると取捨選択も変わるの面白い~!

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#アルファズル戦記
#雪が解けて春になる

ひとりごと2026年,創作,マンガ

また日記の日が空いた!!

いや、最近創作意欲がメキメキしておりまして。朝活まで楽しくやっております。
だらだらと動画を見るよりメリハリがつくし、今は文章でなくてお絵描きのターンなので、進捗が目に映っていいですね。左向きが変なのは直せていないですが……。

人様に見せるつもりの無い、自分で楽しむ範囲で描いていたのですが、折角ここまで描いたので、完成したら公開します。はい公開します!

日記,ひとりごと2026年,創作

『灰になるまで君を呼ぶ』03/01~03/10
#語彙トレ2026 3月上旬です。
まだ3月ですが、灰君はクライマックスに向かっています。

前回→618
続き→632

03/01-撹拌
「ディックス!」
「無事だったか!」
「ったく、悪運はいいよなお前も」
 マオと共にエンリルに乗り込むと、LINKSの同志達が出迎え、ばしばし叩いてきた。狸に拘束されたはずではなかったかと思うが、ギルガメッシュの機械化を思えば、留置所の鍵を無効化するのも朝飯前だろう。
「俺達も行くぜ、あの狸とエンリケの野郎をぶっ飛ばしによ」
 頼もしい同僚達に笑い返した時。
 ごう、と炎が窓の外をなめ、さっきまでいた町を一瞬にして火の海にした。
 人も建物も溶け、まるでクリームのように撹拌されてどろどろの大地になる。その上を、『終焉の獣』アヌナークが飛び去っていった。

03/02-萌芽
 行く先の大地を焼き尽くしながら、アヌナークはアサル=アリムへ向かって飛んでゆく。幸い、武器を搭載せずに御せる分、エンリルの方が速く飛べるので、破壊の萌芽がヴァルファレスを覆う前に、首都に帰りついて、大統領の手からレイティス達を取り戻さなくてはならない。
 彼女はアグレイシアとの和平の為に必要な存在だ。決して失われてはならない。
 それと同じくらい、ティナは自分の中で深く根を張っている。家族に恵まれなかった彼女には、もう自分しかいない。次に手を握ったら、もう二度と手を離さない。
 決意するディックスの視界に、アヌナークの接近で混乱する首都が見えてきた。

03/03-爛漫
 摩天楼が並び立ち、その輝きから『爛漫の夜景』と呼ばれた、アサル=アリム首都ヴァルファレスは、混乱の極みにあった。誰もが破壊兵器の接近に混乱に陥り、首都を脱出しようと押し合い圧し合い、老人が踏み潰され、親とはぐれた子供が人波に流されるのが、エンリルの窓からでも見える。
 混沌の極みを眼下に見ながら、エンリルはただひとつの建物を目指して飛ぶ。
 ヴォルフ大統領が君臨する、エヴァータワーを。
『最上階に着けるぞ』
 脳を組み込まれたギルガメッシュが、エンリル内に響き渡る機械音声で告げれば、LINKSの誰もが、手を叩いて喝采の嵐を巻き起こした。

03/04-朧
 強化ガラス越しに朧気に見える満月を、革張りチェアに座りながら見上げて、ヴォルフ大統領はぷかぷかと葉巻をふかしていた。やがて振り向く先には、エンリケに銃を突きつけられたレイティスと、その後ろに、顔色の悪いティナがいる。
「簡単なことですよ、皇女殿下」
 でっぷりとした体を持ち上げ、レイティスの鼻先に葉巻を突き付ける。
「皇国と連絡を取る手段はお持ちでしょう? 貴女の騎士に、宰相を通して敗北宣言一言お願いします、と言えば、この戦いは終わる」
「終わりません」
 皇女は強い目力で見返す。
「あなた方権力者の起こした戦は、ただの破壊行動です」

03/05-予兆
 大統領の顔が醜く歪んだ。葉巻の火をレイティスに押し付けようとした瞬間、ティナが咄嗟に腕を割り込ませて、そこで火を受けた。兵服が焦げて肌にも確実に火傷を負ったはずなのに、苦痛ひとつ見せない。それには、大統領もエンリケも唖然とする。
 さらには、駆動音が強化ガラス越しに聞こえてくる。
 それを予兆に、ガラスを破る大轟音が響いて、『鋼鉄の鳥』エンリルがエヴァータワーの最上階に突っ込んできた。
「レイティス!」
 仰天して腰を抜かす大統領にも、呆気に取られるエンリケにも構わず、搭乗口から身を乗り出してディックスは叫んだ。
「ティナも! 一緒に来い!!」

03/06-孤独
 ずっと独りだと思っていた。
 父に愛されず、周囲からは敬遠され、兵士達と出撃しても距離を取られた。
 孤独の中で、独り心まで凍りついて、人生を終えるのだと思っていた。
 それなのに。
「ティナ!」
 その身に始祖種の血を宿した幼馴染は、炎のように情熱的に自分の名を呼び、手を伸ばすのだ。
 まるで、灰になって燃え尽きても構わないと。その灰の中から、伝説の不死鳥のごとく蘇ってみせようとばかりに。
 手を伸ばそうとしたところに、エンリケが銃を向ける。一睨みでその手ごと氷結させる。
 レイティスが『鋼鉄の鳥』に乗り込む。それに続けば、しっかりと抱き締められた。

03/07-幻視
 皇女とその護衛を連れて、『鋼鉄の鳥』がエヴァータワーから飛び去る。びょうびょうと高層の風が吹き込む中、エンリケは、へたり込んで変な笑いを漏らし続ける大統領に目を向けた。
「は……はは……。儂が三国を……マルディアスを……」
 葉巻が手からぽろりとこぼれ落ちる。最早彼は、自分が覇者になる、ありえない未来を幻視して、エンリケのことどころか、現実も見えていないだろう。
 砕けたガラスのカンバスに、『終焉の獣』アヌナークが大写しになる。大統領は、迫る死を認めず笑っている。
 これが裏切り者の末路か。
 エンリケの凍った手が砕け落ち、アヌナークが火を吹いた。

03/08-散逸
 アヌナークは『終焉の獣』さながら、ヴァルファレスに破壊をもたらした。地面が燃え、建物が溶けて、人々が逃げ惑う。国軍の将は散逸した兵を引き留めようと必死だが、人の力の及ばぬ獣の前には無力だった。
「ギル」
 ディックスは銃に弾込めをしながら、養父に呼びかける。
「皇女の言葉を三国救難チャンネルで。その間に俺がアヌナークに乗り込んで、姉さんを」
 言いさして一瞬目を閉じ、無邪気に笑っていた赤髪の少女の幻を振り払う。
「アヌナークの核を撃つ」
『……わかった』
 こちらの覚悟を受け取ってくれたのだろう。アンドロイドの養父はこくりと頷いた。

03/09-瓦解
「ディックス」
 冷たい手が、銃を握る手の甲に触れた。
「私も行く。炎のヴァーンの加護を受けるアヌナークには、私の力が効くかもしれない」
 ティナはあくまで淡々と語る。正直なところ、彼女を死地に同行させたくはない。ティナには、日の当たる場所で穏やかに笑っていて欲しい。
 彼女が一人でそれをすることを望まないと知っているから、ディックスは溜息ひとつ落とし、幼馴染の黒い瞳を見つめる。
「俺から離れるなよ」
 ティナが軽く頷く。
『お前達が失敗すれば、全てが瓦解し、マルディアスは滅びる。心しろ』
 ギルガメッシュが告げる中、エンリルはアヌナークに接近した。

03/10-煽情
『アグレイシアの皆さん、今こそ反撃の時です』
 艶を帯びた煽情的な声がラジオから聞こえる。違う。彼女はこんな、女を武器にした媚びるような喋り方をしない。
『ジュメールはアサル=アリムと共謀して破壊兵器を持ち出し、天罰を食らいました。正義は我々にあるのです。アグレイシアこそが、マルディアスの頂点に立つべく、皆さんのお力を貸してください』
 彼女と全く違う容姿の女性が放送機器に向かって語るのを、ブリームがにやにやと満足げに見守っている。
 いっそここで斬り捨てられたら。歯痒さを噛み締めていると。
『皆さん、騙されないでください』
 凛とした声が割り込んだ。畳む


#アルファズル戦記
#灰になるまで君を呼ぶ

創作,小説

FF14のサブに雪春のゼファーを作り、リテイナーにヒオウを雇い、なんとなくサイエンティスト装備にリムレスグラスを合わせたら、本編ヒオウに裏設定がひとつ爆誕しました。
本編前のことですが、秋に発行予定の異聞録に収録される話を含むので、ネタバレとして畳みます。

ヒオウは本編で、兄ヴァーリを諫めるのに失敗して国を追われ、命を狙われている、というのは上巻の人物紹介にも書きましたが、異聞録でこの辺りを掘り下げた話を収録します。
その時、ヴァーリにかなりの暴力を振るわれました。
……で、ここでFF14の眼鏡が作用しまして、
「この時に視神経がやられて、眼鏡をかけないと細かい文字が読めなくなっている」
という裏設定が爆誕しました。
報告書とか、手元の文字がぼやけるだけで、他の視力や色覚は正常なので、日常生活や戦闘に支障はありません。公開予定の無い習作では、ゼファーの銀髪金瞳もきちんと見えると言って、ゼファーをときめかせています。この天然たらし王子……。

この辺り漫画で描けて見られたら嬉しいな~わたしが!! と思っているんですが、画力が足りないので、一人で楽しむ習作文章にした次第です。
しっかし、どんどんヒオウにひどい設定が積まれていくので、彼もたつみ村ヒーローとして立派(?)になってきたな……とつくづく思います。
後乗せで積むの、アルファズルのクレテスとアッシュとか、FOのミサク並ですね!?畳む


#アルファズル戦記
#雪が解けて春になる

日記,ひとりごと2026年,創作

2026年2月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

『灰になるまで君を呼ぶ』02/21~02/28まとめ。
#語彙トレ2026 2月下旬分です。
恋も破壊もたつみ節が勢いづいてきました。
ていうか……2月が……終わるだと……!?

前回→613
続き→624

02/21-憧憬
 熱と冷気が、決して混じり合うこと無く、しかししっかりと手を繋いでいる。
「私は、ミランダ姉さんが羨ましかったのだと思う」
 他人事のように淡々と、幼馴染は憧憬を語る。
「姉弟というだけで、あなたと深い繋がりを持っていたから。私は、父にも愛されていなかったから」
 否定できない。シュミット博士は、己が娘のことも、異能の実験台としか見ていなかったから。
 だが、だからこそ、伝えなくてはいけない。
「俺がいる」
 強く手を握り込む。
「お前の感情まで凍っても、いくらでも呼んでやる」
 無感情だった瞳に光が宿る。
 熱と冷気を交換するかのように、くちづけた。

02/22-虚無
 夜が更けて、ディックスたちは宿に戻った。部屋では、しゃんとしたレイティスと、何だか不機嫌そうなマオが待っていた。
「ギルに連絡を取る。迎えがくるはずだから、しばらく待っててくれ」
 イヤホン式のLINKS通信端末でギルガメッシュを呼び出す。しかし、いつまで経っても応答が無い。いぶかしんだ時。
「LINKS本部は大統領府の管轄下に入ったぜ」
 軽い調子で、しかし驚くべき事実を告げながら、入ってくる男がいた。
「エンリケ……?」
 同僚は笑っている。しかし、虚無の底のような感情の死んだ瞳で、銃口をこちらに向けながら。
「レイティス皇女にご同行願おうか」

02/23-煽動
「ヴォルフ大統領、いや、父上のご命令だよ。LINKSは応じなかったから、隊員は拘束させてもらった。隊長は逃げおおせたがね」
 衝撃が走る。僚友だと思っていた男は、あの狸の子飼いだったのか。
「アグレイシアとジュメールとは、徹底抗戦に入る。民衆も父上の演説に沸き立ったよ」
 愚かな煽動に愚かな民が誘導されたのか。ひとつ息をついて、銃を抜く。
 ふたつの銃声が、夜更けの裏通りを突き抜ける。
 ディックスの弾はわざとエンリケを外した。だが、友と信じていた男は、こちらを撃つ気満々だったろう。しかし、痛みは感じない。なのに、床に血の池が広がった。

02/24-収束
 目の前の光景を否定しかけた。ティナが床に横たわっている。その下から、赤いものが流れ落ちている。
「急所は外したか」
 エンリケが、さしたることは無さそうに吐き捨てて、改めてレイティスに銃口を向ける。
「皇女様。貴女が来て、敗北宣言ひとつしてくれれば、アグレイシアとは共同戦線を張れるんですよ。アヌナークの光線が収束して焼くのは、そっちの国の兵士だけどね」
「ギルがそんな事を許すはず」「LINKSはもう存在しないんだよ」
 銃声がして、頬をかすめる。エンリケはこちらを撃つ事に躊躇いが無い。
 やるしかないのか。逡巡した時、ティナがふらりと立ち上がった。

02/25-渺茫
「ディックスは殺させない」
 血に染まった脇腹をおさえながら、ティナは変わらぬ淡々とした声を張る。見れば彼女の傷口は凍って、既に血は止まっていた。
「だけど、レイティス様も見捨てられない。皇女様の身の安全のために、わたしもついてゆく」
「自分から人質を増やしてくれるとは、よくできた部下だな、皇女様?」
 エンリケの嘲弄に、レイティスは唇を噛む。
「ディックスとガキは動くな。女二人だけ来い」
 銃を向けたままエンリケが手招きするのに従い、レイティスとティナは部屋を出てゆく。皇女が去り際に何か口を動かした。
 取り残された二人は、前途渺茫のまま、立ち尽くして。

02/26-慟哭
 ふらりとよろめいて、尻餅をつくようにベッドに座り込む。
「何やってんだよ、兄ちゃん!」
 マオが涙目で食いついてきた。
「悔しくないのかよ!? 二人を助けに行かないのかよ!?」
 言われて色んな考えが巡る。
 姉をジュメールに奪われたこと。ティナがいなくなったこと。ギルガメッシュの顔を思い出せないこと。エンリケに裏切られたこと。
「……悔しいに決まってるだろ」
 拳を握り締めれば、ぽたり、と涙が落ちる。自分のものだと気づけば、感情の渦は逆巻いて止まらなかった。
 慟哭が迸る。
 本当はずっと泣きたかった。奪われたくなかった。
 子供のように、泣き叫んだ。

02/27-逡巡
「兄ちゃん!」
 マオが握り拳を作って訴えかけてくる。
「レティ達を助けにいこう! 兄ちゃんならできるだろ!?」
 少年の言葉に迷う。ティナは自分よりレイティスを選んだ。ここから先は、あの狸とアグレイシアの戦いではないだろうか。自分の出番は、もう無いのではないか。
 遅疑逡巡するディックスに、マオが苛立って殴りかかろうとした時。
『ディックス、待たせたな』
 行方不明のはずのギルガメッシュの機械的な声が、通信機に届く。
 かと思うと、駆動音と共に窓の外がにわかに暗くなり、鳥の姿を持つ『鋼鉄の獣』が現れたことに驚き戸惑う人々のどよめきが聞こえた。

02/28-胎動
『心配をかけたな』
 宿に姿を現したのは、精巧なアンドロイドだった。抜け落ちていた記憶のピースがかちりとはまる。
 そうだ。ギルガメッシュは深傷を負い、シュミット博士の腕前で、体をまるごと機械に入れ替えた。そして脳を、LINKSが唯一保有する『鋼鉄の鳥』エンリルを制御するために、機体の中枢に埋め込んだのだ。
 だから、エンリルを今動かしているのは。
『立て、ディックス。アサル=アリムへ戻るぞ。アヌナークが、マルディアスを焼き尽くす前に』
 決戦に向けた胎動が始まったのを感じる。
 一度だけ顔をうつむける。たが。
「了解」
 不敵な笑顔で養父を見上げた。畳む


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