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『灰になるまで君を呼ぶ』02/11~02/20
#語彙トレ2026 2月中旬分です。嵐の前の静けさにするつもりが、勢い良く滅びが始まりました。
前回→606
続き→618
02/11-昏倒
「ありがとう、おねえちゃん!」
母の形見を胸に、精一杯手を振り笑顔で去ってゆく少女を見送りながら、マオは思考に沈む。
ジュメールの全てが悪ではない。同じように、三国のどこかで、誰かがひとを救って、誰かが罪を犯している。
(おれにできることって、何だろう)
非力な少年は思い悩む。
その傍らで無感情に少女を見送っていたティナが、不意に膝を折って倒れ込んだ。
「おい!?」
昏倒した彼女にとりすがると、体が酷く冷たい。まるでディックスの逆のように。
どうすれば良いのか。泣き出しそうになった時、背後からそっと伸ばされる、熱を帯びた手があった。
02/12-呪縛
「心配しないで」
知らないけれど、誰かを想起させる声が耳を撫でる。
「シュミット博士がこの子に課した呪縛よ。ひとを傷つける以外に力を使うことを許さないの」
何故そんなことを知っているのか。振りあおげば、赤銀髪を高い位置でとめた、赤い瞳の女性が、ティナに手をかざしている。その手は熱を持ち、冷えた体を温めていた。
「私も同じ。ビザーリムの研究者たちに、ひとをあやめる力を強化されている」
求めていた場所の名が出てきたことに目を真ん丸くするマオに、女性は哀しげに目を細めた。
「私はアヌナークに支配されている。ほんの少しの時間しか、意思が自由にならない」
02/13-歪曲
「ビザーリム研究所は、いえ、ジュメールは、この世界の理を歪曲させた」
ティナの体を温めながら、女性はとつとつと語る。ティナも無感情だが、このひとも喜怒哀楽が感じられない。
「『鋼鉄の獣』に武器を搭載してはならない。必ず暴走して、マルディアスを破壊する。その摂理に逆らった」
なんだかとんでもない話を聞かされている気がする。マオが戦慄すると、女性は、ティナにかざしているのと逆の手で薬瓶を取り出し、こちらに託した。
「私以外のヴァーンを殲滅させるウィルスの特効薬よ。私の血から作っているから、弟には必ず効くはず」
驚愕の事実を添えて。
02/14-果断
「ミランダねえさん……?」
ティナのか細い声が、マオの驚きを更に上書きした。この二人は知り合いなのか。
「久しぶりね、ティナ」
まだ気だるそうなティナに、ミランダと呼ばれた女性は笑みかける。しかし、不意にその眉間に皺が寄り、苦悶の声がもれる。
「そろそろ時間切れね」
ミランダは身を起こして立ち上がり、マオとティナそれぞれに視線を送る。
「弟に、ディックスに伝えて。アヌナークを滅ぼすのは、LINKSとして育った貴方の果断次第だと」
直後、炎がミランダを取り巻く。哀しそうに微笑んで、彼女の姿は炎と共に、その場からかき消えた。
02/15-払暁
払暁が迫る。国境の街まで戻ってきたマオとティナは、裏通りの宿屋の一室へ駆け込んだ。すると。
「お帰りなさい」
ディックスに傍付いていたレイティスが、すっくと立ち上がった。今までのように怯えた態度ではなく、背筋を凛と伸ばして、意思の感じられる瞳をしている。
「レティ」少年の脳裏を予感が過る。
「今はそれより、ディークの治療を」
皇女に促されて、ディックスのもとに駆け寄り、ミランダに渡された液薬を傾ける。しかし、もう自力で嚥下する力も無く、流れ落ちる。
「飲めよ、馬鹿!」
涙目になるマオの隣で、ティナがやおら薬を含み、ディックスに口移しした。
02/16-忘却
血のような何かが流れ込んでくる。それと同時に、忘却の彼方にあった光景が、はっきりとした形を取り戻す。
『引き裂かれた姉弟! やがて戦い合う運命! アヌナークの潜在能力を引き出すのにうってつけの舞台装置ではないか!』
そうだ。現ジュメール議長マルセナの父親が、姉を連れ去った。禁忌の『終焉の獣』アヌナークを御する鍵として、ヴァーンの子孫である姉弟の片割れを。
(ミランダ姉さんだ)
その時に彼は、ギルを撃った。血を流す腹部をおさえながらも、彼はアサル=アリムに帰りつき、そして。
そこまで思い出した時、意識が現実に回帰する。ティナの顔が間近にあった。
02/17-陶酔
自分が昏睡状態にある間に、状況が変わっていることはわかった。
レイティスは自我を取り戻し、ティナがマオと共に自分を救うべく奔走して、そして、生き別れの姉が、自分を助ける薬をくれたこと。
そしてその姉ミランダこそが、十五年前、アヌナークの核としてジュメールに連れ去られたことを。
「マルセナ議長は、自分が大陸の支配者だと自己陶酔しています」
まだ火照りの残る体をベッドの上に起こして、しゃんとしたレイティスの話を聞く。
「わたくしは、アサル=アリムに戻り、ギルガメッシュ殿に改めて和議と同盟を求めるべきだと思っております」
02/18-執着
「たちが悪いなら、アサル=アリムも同じだな」
ディックスは苦々しく顔をしかめ、大統領のでっぷりした姿を思い出す。あの狸は、世界の覇権を握ることに執着し、いかにしてギルガメッシュとLINKSを追い落とすかに策謀を巡らせている。裏でアグレイシアともジュメールとも繋がっている可能性がある。
どいつもこいつも、相手を出し抜くことばかりを考えて。
「一刻も早く、ギルの元へ戻って、馬鹿共を迎え撃つ準備をととえないと」
そう言ってベッドから降りようとしたが、解熱したばかりの消耗した体は言うことを聞かない。ふらりとよろめいたところに、ティナの冷たい手が触れた。
02/19-剽悍
「ええい、まだですか! アヌナークの再起動は!?」
マルセナはつりがちな目をさらに狐のように吊り上げて、科学者たちを叱責する。
「ヴォルフ大統領も、ブリーム宰相も、ジュメールをなめきっているのですよ! 早々に焼き尽くすべきです!」
「し、しかし」
「うるさい!」
議長はたじろぐ科学者からタブレットを奪い、アヌナーク起動フェーズを進める。『鋼鉄の獣』に火が入り、強化ガラスの目が光る。
直後、アヌナークは獣のごとく吼え、ケーブルを引きちぎり、炎を吐いた。
「な……ぜ?」
剽悍な獣の暴走の前に、マルセナは笑顔で凍りついたまま、炎に包まれた。
02/20-欺瞞
「なあ」
マオはフォークで豆をつつきながら、隣でスープをすするレイティスに呼びかける。
「いいのかよ?」
ディックスのことだ。彼はティナと共にどこかへ行ってしまった。青年を慕っていた子供返りの頃を知っているだけに、納得がいかない。
「いいんです」
しかし、皇女は平然と返してくるのだ。それが、彼女が遠くに行ってしまったようで、少し寂しい。
「この欺瞞に満ちた世界で生き抜くには、彼らは優しすぎる。わたくしのような為政者が、責任を負うべきです」
「なら!」
マオは思わず声を高める。
「おれがレティを支える!」
蒼の瞳が驚きに瞠られ、それから細められた。畳む
#アルファズル戦記
#灰になるまで君を呼ぶ
#語彙トレ2026 2月中旬分です。嵐の前の静けさにするつもりが、勢い良く滅びが始まりました。
前回→606
続き→618
02/11-昏倒
「ありがとう、おねえちゃん!」
母の形見を胸に、精一杯手を振り笑顔で去ってゆく少女を見送りながら、マオは思考に沈む。
ジュメールの全てが悪ではない。同じように、三国のどこかで、誰かがひとを救って、誰かが罪を犯している。
(おれにできることって、何だろう)
非力な少年は思い悩む。
その傍らで無感情に少女を見送っていたティナが、不意に膝を折って倒れ込んだ。
「おい!?」
昏倒した彼女にとりすがると、体が酷く冷たい。まるでディックスの逆のように。
どうすれば良いのか。泣き出しそうになった時、背後からそっと伸ばされる、熱を帯びた手があった。
02/12-呪縛
「心配しないで」
知らないけれど、誰かを想起させる声が耳を撫でる。
「シュミット博士がこの子に課した呪縛よ。ひとを傷つける以外に力を使うことを許さないの」
何故そんなことを知っているのか。振りあおげば、赤銀髪を高い位置でとめた、赤い瞳の女性が、ティナに手をかざしている。その手は熱を持ち、冷えた体を温めていた。
「私も同じ。ビザーリムの研究者たちに、ひとをあやめる力を強化されている」
求めていた場所の名が出てきたことに目を真ん丸くするマオに、女性は哀しげに目を細めた。
「私はアヌナークに支配されている。ほんの少しの時間しか、意思が自由にならない」
02/13-歪曲
「ビザーリム研究所は、いえ、ジュメールは、この世界の理を歪曲させた」
ティナの体を温めながら、女性はとつとつと語る。ティナも無感情だが、このひとも喜怒哀楽が感じられない。
「『鋼鉄の獣』に武器を搭載してはならない。必ず暴走して、マルディアスを破壊する。その摂理に逆らった」
なんだかとんでもない話を聞かされている気がする。マオが戦慄すると、女性は、ティナにかざしているのと逆の手で薬瓶を取り出し、こちらに託した。
「私以外のヴァーンを殲滅させるウィルスの特効薬よ。私の血から作っているから、弟には必ず効くはず」
驚愕の事実を添えて。
02/14-果断
「ミランダねえさん……?」
ティナのか細い声が、マオの驚きを更に上書きした。この二人は知り合いなのか。
「久しぶりね、ティナ」
まだ気だるそうなティナに、ミランダと呼ばれた女性は笑みかける。しかし、不意にその眉間に皺が寄り、苦悶の声がもれる。
「そろそろ時間切れね」
ミランダは身を起こして立ち上がり、マオとティナそれぞれに視線を送る。
「弟に、ディックスに伝えて。アヌナークを滅ぼすのは、LINKSとして育った貴方の果断次第だと」
直後、炎がミランダを取り巻く。哀しそうに微笑んで、彼女の姿は炎と共に、その場からかき消えた。
02/15-払暁
払暁が迫る。国境の街まで戻ってきたマオとティナは、裏通りの宿屋の一室へ駆け込んだ。すると。
「お帰りなさい」
ディックスに傍付いていたレイティスが、すっくと立ち上がった。今までのように怯えた態度ではなく、背筋を凛と伸ばして、意思の感じられる瞳をしている。
「レティ」少年の脳裏を予感が過る。
「今はそれより、ディークの治療を」
皇女に促されて、ディックスのもとに駆け寄り、ミランダに渡された液薬を傾ける。しかし、もう自力で嚥下する力も無く、流れ落ちる。
「飲めよ、馬鹿!」
涙目になるマオの隣で、ティナがやおら薬を含み、ディックスに口移しした。
02/16-忘却
血のような何かが流れ込んでくる。それと同時に、忘却の彼方にあった光景が、はっきりとした形を取り戻す。
『引き裂かれた姉弟! やがて戦い合う運命! アヌナークの潜在能力を引き出すのにうってつけの舞台装置ではないか!』
そうだ。現ジュメール議長マルセナの父親が、姉を連れ去った。禁忌の『終焉の獣』アヌナークを御する鍵として、ヴァーンの子孫である姉弟の片割れを。
(ミランダ姉さんだ)
その時に彼は、ギルを撃った。血を流す腹部をおさえながらも、彼はアサル=アリムに帰りつき、そして。
そこまで思い出した時、意識が現実に回帰する。ティナの顔が間近にあった。
02/17-陶酔
自分が昏睡状態にある間に、状況が変わっていることはわかった。
レイティスは自我を取り戻し、ティナがマオと共に自分を救うべく奔走して、そして、生き別れの姉が、自分を助ける薬をくれたこと。
そしてその姉ミランダこそが、十五年前、アヌナークの核としてジュメールに連れ去られたことを。
「マルセナ議長は、自分が大陸の支配者だと自己陶酔しています」
まだ火照りの残る体をベッドの上に起こして、しゃんとしたレイティスの話を聞く。
「わたくしは、アサル=アリムに戻り、ギルガメッシュ殿に改めて和議と同盟を求めるべきだと思っております」
02/18-執着
「たちが悪いなら、アサル=アリムも同じだな」
ディックスは苦々しく顔をしかめ、大統領のでっぷりした姿を思い出す。あの狸は、世界の覇権を握ることに執着し、いかにしてギルガメッシュとLINKSを追い落とすかに策謀を巡らせている。裏でアグレイシアともジュメールとも繋がっている可能性がある。
どいつもこいつも、相手を出し抜くことばかりを考えて。
「一刻も早く、ギルの元へ戻って、馬鹿共を迎え撃つ準備をととえないと」
そう言ってベッドから降りようとしたが、解熱したばかりの消耗した体は言うことを聞かない。ふらりとよろめいたところに、ティナの冷たい手が触れた。
02/19-剽悍
「ええい、まだですか! アヌナークの再起動は!?」
マルセナはつりがちな目をさらに狐のように吊り上げて、科学者たちを叱責する。
「ヴォルフ大統領も、ブリーム宰相も、ジュメールをなめきっているのですよ! 早々に焼き尽くすべきです!」
「し、しかし」
「うるさい!」
議長はたじろぐ科学者からタブレットを奪い、アヌナーク起動フェーズを進める。『鋼鉄の獣』に火が入り、強化ガラスの目が光る。
直後、アヌナークは獣のごとく吼え、ケーブルを引きちぎり、炎を吐いた。
「な……ぜ?」
剽悍な獣の暴走の前に、マルセナは笑顔で凍りついたまま、炎に包まれた。
02/20-欺瞞
「なあ」
マオはフォークで豆をつつきながら、隣でスープをすするレイティスに呼びかける。
「いいのかよ?」
ディックスのことだ。彼はティナと共にどこかへ行ってしまった。青年を慕っていた子供返りの頃を知っているだけに、納得がいかない。
「いいんです」
しかし、皇女は平然と返してくるのだ。それが、彼女が遠くに行ってしまったようで、少し寂しい。
「この欺瞞に満ちた世界で生き抜くには、彼らは優しすぎる。わたくしのような為政者が、責任を負うべきです」
「なら!」
マオは思わず声を高める。
「おれがレティを支える!」
蒼の瞳が驚きに瞠られ、それから細められた。畳む
#アルファズル戦記
#灰になるまで君を呼ぶ
公募ひとつ送ったー!
さすがにいきなり長編はカロリーオーバーなので、リハビリに短編から。
長編書いてるやんけ、って言われそうだけど、趣味で書くのと公募に書くのには、やはり脳の使い方が違うので……。
まあ、通ることより、「書いて送った」という一歩を踏み出した自分をたたえます。
下読みしてくれたかたがたもありがとうございます。
一度はあったけど、また「たつみ暁」で本屋に本が並ぶ夢を見て、雪春異聞録の続きかお絵描き練習をしてきまーす!
さすがにいきなり長編はカロリーオーバーなので、リハビリに短編から。
長編書いてるやんけ、って言われそうだけど、趣味で書くのと公募に書くのには、やはり脳の使い方が違うので……。
まあ、通ることより、「書いて送った」という一歩を踏み出した自分をたたえます。
下読みしてくれたかたがたもありがとうございます。
一度はあったけど、また「たつみ暁」で本屋に本が並ぶ夢を見て、雪春異聞録の続きかお絵描き練習をしてきまーす!
本日、『婚約破棄は違法です!(副題略)』が、くるみ舎こはく文庫様より配信されました。
………………いやー………………本当にいろんな方々のご尽力で、ここまで至りました、本当にありがとうございます。
人間独りで生きているんじゃないんだなって、本当にもう、ええ………………。
昨今の悪役令嬢婚約破棄に真っ向から逆らうようなタイトルですが、内容は、悪役令嬢(冤罪)が、美形の司祭様と恋愛したり、婚約破棄をした王子に立ち向かったりします。
後味はスッキリだと思……思います! ので、いつものたつみ村をご存知の方は、安心してお読みください! たつみ村をご存知でない方も楽しめる一作になったと思っております!
よろしくお願いいたしまーす!
………………いやー………………本当にいろんな方々のご尽力で、ここまで至りました、本当にありがとうございます。
人間独りで生きているんじゃないんだなって、本当にもう、ええ………………。
昨今の悪役令嬢婚約破棄に真っ向から逆らうようなタイトルですが、内容は、悪役令嬢(冤罪)が、美形の司祭様と恋愛したり、婚約破棄をした王子に立ち向かったりします。
後味はスッキリだと思……思います! ので、いつものたつみ村をご存知の方は、安心してお読みください! たつみ村をご存知でない方も楽しめる一作になったと思っております!
よろしくお願いいたしまーす!
『灰になるまで君を呼ぶ』02/01-02/10
#語彙トレ2026 まとめました。主人公ピンチ。
前回→591
続き→613
02/01-潜伏
マオを加えて三人になった一行は、サイドカー付きの中古車に乗り換え、戦争から逃げてきたきょうだいを装ってジュメールの国境街に入った。
上手く潜伏できたと思う。のだが、どうにも身体が重い。マオを拾った町を出てから五日。自分の悪い勘が当たるなら、潜伏期間を経た頃だろう。
「マオ」
だらだらと汗を流しながら少年の名を呼び、硬貨の入った革袋を放る。
「目立たない裏通りの宿で二部屋取れ。で、闇医者を探せ。間違ってもまっとうな医者を呼ぶなよ」
そこまで言ったところで、ディックスの意識は沈み込む。
「ディーク!?」
レイティスの声が遠くに聞こえた。
02/02-呻吟
浅い呼吸の合間に呻吟が混じる。氷嚢を載せても、高熱の前にあっという間に溶ける。
「こりゃ、アタシにもどうしようもないね」
お手上げ、とばかりに闇医者の女は両肩をすくめた。
「あんたら、同じ場所から来たんだろ? 伝染病にしても、なんでこのぼうやだけ発症して、あんたらがピンピンしてるのか、わからない」
「ディーク、しぬの?」
レイティスが涙目で闇医者を見つめる。女は溜息をつき、首を横に振る。
「ビザーリム研究所まで行けばあるいは。だけど、あんな気のおかしい連中の吹き溜まりにあんたらをやれないよ」
レイティスの表情が、絶望的になった。
02/03-狡猾
「レティ、間違っても兄ちゃんを救うためにビザーリムに一人で行くとかすんなよ」
マオはディックスにつきっきりの子供返り皇女に声をかける。どこの国にも属さない町で育ったマオにとっては、どこの国も敵だ。だけどディックスは、LINKSであることを隠さずに、レイティスがアグレイシアの皇女であることも話してくれた。自分を一人の男として見込んでくれたのだ。……と前向きな解釈をする。
「レティは兄ちゃんを看てろよ」
マオの言葉に、皇女はゆるゆる頷く。それを見て部屋を出る。
我ながら、こういうのは『狡猾』と言うのだったか。
「命賭けてみたいじゃん、男ならさ」
02/04-残照
マオは宿を出て裏通りを走る。
ビザーリム研究所というのがどこかはわからない。酒場に行っても、「ガキはおうちでミルクでも飲んでな」と叩き出されるだろう。
行くあても無いまま、山脈に落ちる残照をぼんやりと眺めていると、ひゅうっと冷たい風が吹いた気がして、顔を上げる。そしてぎょっとした。
いつの間にか、茶髪に黒瞳の女性がマオを見下ろしていた。気配など無かった。驚きで心臓がすくみあがる。
「あなた」女が口を開く。「ディックスを助けに行くつもり?」
何故知っているのか。警戒心を満たして睨みつけると、女はゆるゆると首を横に振った。
02/05-微睡む
青年にもたれかかったまま、微睡みに落ちたレイティスは夢を見た。
氷色の瞳を持つ男が、自分を見つめている。
『どうか今は、堪え忍んでください』
両手を握り締める手はひんやりとしている。
『ブリームの企みから貴女を逃すには、これしか無い』
貴方も一緒にと言っても、彼の決意が覆ることは無い。
『貴女は外からの援助を。私は内から奴を崩します』
そして彼は背を向けて去ってゆく。行かないでと手を伸ばしても届かない。
「ジーク!」
叫びながらばっと顔を上げる。
そうだ。何故忘れていたのだろう。こんなに大事なことを。
涙が頬を伝った。
02/06-遡及
「その言い分は認められません」
「しかしながら、皇女殿下」
凛と背を伸ばして睨み付けても、宰相は飄々と肩をすくめた。
「『皇王が政務に就けない場合、宰相にその権限を譲渡する』、これは陛下が倒れられた半年前まで遡及して有効です」
半年以上前からお前が仕込んでいたのだろうが。殴りかかりたい拳を握り締め、怒りを飲み込む。
「ならば、わたくしはやはりアサル=アリムに赴き、父上を治す術を探し、同時に、ジュメールに対抗する同盟を結んでまいりましょう」
ブリームがあからさまに嫌そうな顔をする。自分の背後で護衛騎士が痛快に唇を持ち上げる気配がわかった。
02/07-深淵
結局ジークハルトを皇都に置いたまま、少数の護衛を伴って国を出た。それをブリームが見逃すはずが無かった。
アサル=アリムの街道をゆく途中で、馬車が賊に襲われ、御者を斬り捨てられた暴れ馬は土手を落ちて、河に放り出された。
深淵に沈みゆく中、護衛騎士の名をあぶくで繰り返しながら、意識を失い、すべてを仕組んだ宰相の手の者に引き上げられた時には、理性も失っていた。
護送の途中で、LINKSと戦闘になっていなかったら、自分は人知れず消されて遺体が国に帰っていただろう。
だが、自分は生きているのだ。
「ディーク」
苦しそうな青年に呼びかける。
「ありがとう」
02/08-禁忌
ティナ・シュミットと、女性は名乗った。ディックスの幼馴染だとも。その割には、アグレイシア軍の兵服を着ていて、どうにも胡散臭い。
「信じなくてもいい。でも、今は目的を同じにする同志だと思って」
無表情で言い切るのも怪しい。だが、マオの子供ながらの勘は、嫌悪感で突き放すのは悪手だと告げていた。
「おそらく、ジュメールは禁忌を犯した。LINKSの介入を恐れ、始祖種ヴァーンだけを殲滅するウィルスを、『鋼鉄の獣』に搭載していた」
淡々と語るティナの話が全部わかるわけではない。ただ、子供の自分にもわかる。ジュメールが、三国一の悪党だと。
02/09-翻弄
ティナと共にゆく道は、戦争に翻弄されたひとびとの絶望の残骸だった。建物の陰にもたれかかったまま息絶えている軍人。明日の食料に餓えた老人。親を求めて泣いている、自分より幼い子供。
「ジュメールは敵じゃないの?」
彼らに目もくれずすたすたと進むティナとの沈黙に耐えかねて訊ねれば、彼女は淡々と返してくる。
「たしかに、戦に敵と味方はある。だけど善悪は無い。誰もが我が国が正義だと言い張り、誰もが己の悪行から目を逸らす」
少年を見下ろすティナの表情は、やはり冷たいままだ。
「あなたはこちら側に来てはいけない。撃たずに、ただ公正に、事実を見ていて」
02/10-瓦礫
瓦礫の山を漁っている少女がいた。服は薄汚れて、むき出しの腕や足はあちこちが傷ついている。埋もれそうなほどに体を突っ込んで、何かを探している。
「……何やってんだよ」
マオは見過ごせず声をかける。少女はびくりと身をすくませ、のそのそと這い出てきた。
「ママの」
つぶらな目を潤ませる。
「ママの形見のペンダントが、この中に」
見つかるはずが無い。潰されて、自分も瓦礫の一部になるのが関の山だ。そう告げようとした時、ティナが瓦礫の前に膝をついて、手を触れる。そこから鉄屑の山が凍りついて砕け、きらきら光るトパーズのペンダントが残った。畳む
#アルファズル戦記
#灰になるまで君を呼ぶ
#語彙トレ2026 まとめました。主人公ピンチ。
前回→591
続き→613
02/01-潜伏
マオを加えて三人になった一行は、サイドカー付きの中古車に乗り換え、戦争から逃げてきたきょうだいを装ってジュメールの国境街に入った。
上手く潜伏できたと思う。のだが、どうにも身体が重い。マオを拾った町を出てから五日。自分の悪い勘が当たるなら、潜伏期間を経た頃だろう。
「マオ」
だらだらと汗を流しながら少年の名を呼び、硬貨の入った革袋を放る。
「目立たない裏通りの宿で二部屋取れ。で、闇医者を探せ。間違ってもまっとうな医者を呼ぶなよ」
そこまで言ったところで、ディックスの意識は沈み込む。
「ディーク!?」
レイティスの声が遠くに聞こえた。
02/02-呻吟
浅い呼吸の合間に呻吟が混じる。氷嚢を載せても、高熱の前にあっという間に溶ける。
「こりゃ、アタシにもどうしようもないね」
お手上げ、とばかりに闇医者の女は両肩をすくめた。
「あんたら、同じ場所から来たんだろ? 伝染病にしても、なんでこのぼうやだけ発症して、あんたらがピンピンしてるのか、わからない」
「ディーク、しぬの?」
レイティスが涙目で闇医者を見つめる。女は溜息をつき、首を横に振る。
「ビザーリム研究所まで行けばあるいは。だけど、あんな気のおかしい連中の吹き溜まりにあんたらをやれないよ」
レイティスの表情が、絶望的になった。
02/03-狡猾
「レティ、間違っても兄ちゃんを救うためにビザーリムに一人で行くとかすんなよ」
マオはディックスにつきっきりの子供返り皇女に声をかける。どこの国にも属さない町で育ったマオにとっては、どこの国も敵だ。だけどディックスは、LINKSであることを隠さずに、レイティスがアグレイシアの皇女であることも話してくれた。自分を一人の男として見込んでくれたのだ。……と前向きな解釈をする。
「レティは兄ちゃんを看てろよ」
マオの言葉に、皇女はゆるゆる頷く。それを見て部屋を出る。
我ながら、こういうのは『狡猾』と言うのだったか。
「命賭けてみたいじゃん、男ならさ」
02/04-残照
マオは宿を出て裏通りを走る。
ビザーリム研究所というのがどこかはわからない。酒場に行っても、「ガキはおうちでミルクでも飲んでな」と叩き出されるだろう。
行くあても無いまま、山脈に落ちる残照をぼんやりと眺めていると、ひゅうっと冷たい風が吹いた気がして、顔を上げる。そしてぎょっとした。
いつの間にか、茶髪に黒瞳の女性がマオを見下ろしていた。気配など無かった。驚きで心臓がすくみあがる。
「あなた」女が口を開く。「ディックスを助けに行くつもり?」
何故知っているのか。警戒心を満たして睨みつけると、女はゆるゆると首を横に振った。
02/05-微睡む
青年にもたれかかったまま、微睡みに落ちたレイティスは夢を見た。
氷色の瞳を持つ男が、自分を見つめている。
『どうか今は、堪え忍んでください』
両手を握り締める手はひんやりとしている。
『ブリームの企みから貴女を逃すには、これしか無い』
貴方も一緒にと言っても、彼の決意が覆ることは無い。
『貴女は外からの援助を。私は内から奴を崩します』
そして彼は背を向けて去ってゆく。行かないでと手を伸ばしても届かない。
「ジーク!」
叫びながらばっと顔を上げる。
そうだ。何故忘れていたのだろう。こんなに大事なことを。
涙が頬を伝った。
02/06-遡及
「その言い分は認められません」
「しかしながら、皇女殿下」
凛と背を伸ばして睨み付けても、宰相は飄々と肩をすくめた。
「『皇王が政務に就けない場合、宰相にその権限を譲渡する』、これは陛下が倒れられた半年前まで遡及して有効です」
半年以上前からお前が仕込んでいたのだろうが。殴りかかりたい拳を握り締め、怒りを飲み込む。
「ならば、わたくしはやはりアサル=アリムに赴き、父上を治す術を探し、同時に、ジュメールに対抗する同盟を結んでまいりましょう」
ブリームがあからさまに嫌そうな顔をする。自分の背後で護衛騎士が痛快に唇を持ち上げる気配がわかった。
02/07-深淵
結局ジークハルトを皇都に置いたまま、少数の護衛を伴って国を出た。それをブリームが見逃すはずが無かった。
アサル=アリムの街道をゆく途中で、馬車が賊に襲われ、御者を斬り捨てられた暴れ馬は土手を落ちて、河に放り出された。
深淵に沈みゆく中、護衛騎士の名をあぶくで繰り返しながら、意識を失い、すべてを仕組んだ宰相の手の者に引き上げられた時には、理性も失っていた。
護送の途中で、LINKSと戦闘になっていなかったら、自分は人知れず消されて遺体が国に帰っていただろう。
だが、自分は生きているのだ。
「ディーク」
苦しそうな青年に呼びかける。
「ありがとう」
02/08-禁忌
ティナ・シュミットと、女性は名乗った。ディックスの幼馴染だとも。その割には、アグレイシア軍の兵服を着ていて、どうにも胡散臭い。
「信じなくてもいい。でも、今は目的を同じにする同志だと思って」
無表情で言い切るのも怪しい。だが、マオの子供ながらの勘は、嫌悪感で突き放すのは悪手だと告げていた。
「おそらく、ジュメールは禁忌を犯した。LINKSの介入を恐れ、始祖種ヴァーンだけを殲滅するウィルスを、『鋼鉄の獣』に搭載していた」
淡々と語るティナの話が全部わかるわけではない。ただ、子供の自分にもわかる。ジュメールが、三国一の悪党だと。
02/09-翻弄
ティナと共にゆく道は、戦争に翻弄されたひとびとの絶望の残骸だった。建物の陰にもたれかかったまま息絶えている軍人。明日の食料に餓えた老人。親を求めて泣いている、自分より幼い子供。
「ジュメールは敵じゃないの?」
彼らに目もくれずすたすたと進むティナとの沈黙に耐えかねて訊ねれば、彼女は淡々と返してくる。
「たしかに、戦に敵と味方はある。だけど善悪は無い。誰もが我が国が正義だと言い張り、誰もが己の悪行から目を逸らす」
少年を見下ろすティナの表情は、やはり冷たいままだ。
「あなたはこちら側に来てはいけない。撃たずに、ただ公正に、事実を見ていて」
02/10-瓦礫
瓦礫の山を漁っている少女がいた。服は薄汚れて、むき出しの腕や足はあちこちが傷ついている。埋もれそうなほどに体を突っ込んで、何かを探している。
「……何やってんだよ」
マオは見過ごせず声をかける。少女はびくりと身をすくませ、のそのそと這い出てきた。
「ママの」
つぶらな目を潤ませる。
「ママの形見のペンダントが、この中に」
見つかるはずが無い。潰されて、自分も瓦礫の一部になるのが関の山だ。そう告げようとした時、ティナが瓦礫の前に膝をついて、手を触れる。そこから鉄屑の山が凍りついて砕け、きらきら光るトパーズのペンダントが残った。畳む
#アルファズル戦記
#灰になるまで君を呼ぶ
3~4ヶ月ぶりに、アルファズルに関係の無い短編を書いたんだけど、前半は書き込むのに後半が淡白と言うか雑になってゆく癖がでてしまった……。
が、今回はこれが「演出」として押し通せそうなので、このままいきます。
悪癖がこうなることもあるんだなあ。
が、今回はこれが「演出」として押し通せそうなので、このままいきます。
悪癖がこうなることもあるんだなあ。
2026年1月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
『灰になるまで君を呼ぶ』01/21~01/31
#語彙トレ2026、1ヶ月続きました。
前回→581
続き→606
01/21-凝結
エンリケと別れて隊長室へ向かう。
『どうした、ディックス?』
相変わらずパーティションの向こうから話しかけてくる養父に、皇女にばれずに説明をするにはどうしたものかと思案する。
「凝結を超えて氷になった国からの、手回しだ」
LINKS式のアグレイシアの表現をして、遠回しの説明をする。皇女の護衛騎士が、宰相の放った手下の自作自演を潰して欲しいと願ったことだと。
『成程』
影がゆらゆら揺れる。
『恐らくその裏切り者は、暴走する獣の国にも通じているだろう』
マルディアスに在る、三大国家の最後のひとつを聞いた時、ディックスの視界はぐらりと傾いだ。
01/22-諧謔
『実に諧謔に満ちた筋書きではないか?』
炎が燃え盛る街だった。顔の見えない誰かが笑っている。自分は背の高い誰かの腕の中で震えている。この炎をもたらしたのが、自分だけではないことはわかっていた。
『引き裂かれた姉弟! やがて戦い合う運命! ○○○○○の潜在能力を引き出すのにうってつけの舞台装置ではないか!』
何か聞き取れない単語があった。顔の見えない誰かの手を、赤銀髪の少女が握っている。赤い瞳はぼんやりと曇り、どこを見ているのかわからない。
『おねえちゃん』
手を伸ばしても届かず、振り向かず、ふたりは炎の向こうに消えた。
01/23-寂寥
あの後何年かして、腕の主に連れられて、惨劇の街を見に戻った気がする。街は再興されること無く、灰が降り積もって、沈黙と寂寥感に包まれていた。
『お前の役目は重いものだが』
手を繋ぐ相手が言った。
『必ずこのマルディアスを救う鍵になる。そのために、強くなれ。LINKSとして、ヴァーンの子孫として』
見上げると、逆光で顔の見えない、黒髪を整髪料でなでつけた、背の高い男性に見つめられていた。
(……あれ?)
ふと疑問が走る。
(ギルって、どんな顔してたっけ)
途端に。頭の天辺から爪先まで、激痛が走った。
01/24-軋む
身体が痛い。全身の骨が軋むように悲鳴をあげている。
「ディー、ク?」
拙い呼びかけが、現実を離れていた意識の襟首を掴む。炎に溺れていたかのごとき感覚が、冷えてゆく。ぜえぜえと喘鳴しながら顔を上げれば。
(ティナ?)
一瞬幼馴染に見えた顔が、紫髪の女性に変わる。蒼の瞳が心配そうにこちらを覗き込んでいる。
『ディックス? 大丈夫か?』
曇り硝子の向こうの養父の声も聞こえる。
「……大丈夫」
ふたりに返し、片手で顔を覆って深い息をつく。
自分は誰かを忘れている。大事な何かを見落としている。まるで、機械の歯車が合わなくて軋んだ音を立てるかのように。
01/25-覚醒
意識が覚醒してくる。現実をはっきりと認識する。
「とりあえず、暴走する獣の国に潜れってことだな」
『お前は察しが良くて助かるよ』
ギルガメッシュが微かに笑う気配がする。呼吸にしては機械的ではあるが。
「その間、このお姫様はどうしようか」
安全を期すなら、同僚であるエンリケあたりに託すのが無難だ。しかし。
「レティ、ディークと、いく。ひとりは、いや」
レイティスは、ぎゅっとこちらの袖をつかんでくる。その姿は、実の父に実験体としか見られていなかった幼馴染の孤独を思い出させる。
「……わかったよ」
途端に、皇女がぱっと笑顔の花を咲かせた。
01/26-輪郭
間接照明が灯る仄暗い部屋に、二人の人物の輪郭が浮かび上がる。一人は本革張りのチェアに深々と腰かけて葉巻をふかし、もう一人はひざまずいて頭を垂れている。
「よく知らせてくれた」
煙と一緒に、笑いを含んだ声が吐き出される。
「LINKSに喧嘩を吹っ掛ける体の良い理由ができた。ギルガメッシュは本当に目障りだからな」
もう一度、深々と葉巻をふかして、でっぷりとした体躯が揺れる。
「ディックス・フリーダンを追え。国内は儂が押さえる」
「かしこまりました」
間接照明に、金髪が照らし出される。
「すべては父上の望むままに」
01/27-邂逅
灰の海だった。
明らかに普通の炎で焼かれたのではない、『なにか』が地面を切り裂き焦がした跡。容赦無く絶たれた命の群れ。
『暴走する獣の国』ジュメールに向かったディックス達の前に現れた町は、惨劇の跡だった。
レイティスが怯えたように腰にしがみつく力を強くする。ディックス自身も、頭の奥がちりちりする。
生き残りを探すだけ無駄だろう。バイクを走り出させようとした時。
「み、みんなの仇い!」
幼い声と、銃声ひとつ。
弾はあらぬ方向に飛んでいったが、皇女が喉の奥で悲鳴をあげる。
咄嗟に銃を抜く。目が合う。
少年との邂逅だった。
01/28-羨望
「お前」銃を下ろし、少年に問いかける。「この町の生き残りか」
「おまえたちがやったくせに!」
向けられる銃口は震えている。持ち方もなっていない。たとえまた引鉄を引いたところで、こちらに当たる確率は一パーセントにも満たないだろう。
「俺達は南……アサル=アリムから来た。この破壊の跡は北から来ている。この意味がわかるか、ガキ?」
少年がはっと目を瞠った。成程、愚かではないようだ。
「おまえについていけば、母ちゃんたちの仇を取れる?」
ディックスの強さにすがるように。羨望を覚えたかのように、緑の瞳が見つめてくる。
いつか自分もこの目をした。復讐の、目を。
01/29-席捲
かつてファルメア帝国がマルディアス大陸の支配者として席捲していた頃、『鋼鉄の獣』という機械兵器が続々と開発された。鋼の皮膚と石油の血液を持つそれらはしかし、神の領域に手を出したひとへの天罰か、悉くが暴走し、それが帝国の斜陽を招いたとされている。
獣達はLINKS――帝国最終防衛機構が多大な犠牲を払って殲滅したはずだ。
だが、この町の惨劇の起き方は、まるで。
「なあ、なあ、兄ちゃん!」
いつの間にか銃をしまって目の前まで来ていた少年の声が、ディックスを現実に呼び戻した。
「兄ちゃん、ジュメールに行くんだろ? おれも行きたい!」
01/30-炯炯
半眼で、少年を見下ろす。
「ガキ、俺達は遊びに行くんじゃねーんだ。これだけ簡単に命を奪う相手の懐へ飛び込むんだぞ」
「それでもだよ!」
炯炯とした瞳で、少年は食いついてくる。
「ディーク」
レイティスが、袖を引いた。
「この子を独りで残していくのは可哀想。独りは、哀しい」
まるで正気に戻ったかのように流暢に語る皇女に驚く。その目はまたすぐにとろんと幼稚に曇ったが。
がりがり頭をかく。これ以上お荷物を抱えるのは正直気が進まないが、孤児をここに残して死なれたら、寝覚めが悪い。
「ガキ」溜息をひとつ。「名前」
少年はぱっと表情を輝かせた。
「マオ!」
01/31-終焉
冷たい風が吹く山麓にある工廠の奥で、科学者達が慌ただしく走り回り、タブレットに指を滑らせている。
「先日の出力は三十パーセント。それでも十分な火力でした」
眼鏡の研究者の報告を背に、長身の壮年の女は、べっとり紅を塗った口を笑みに持ち上げる。
「まだまだですよ」
女はねっとりとした声音で、背後の研究者に言いつける。
「アサル=アリムとアグレイシアを制して、我がジュメールが唯一の王者となるには、百パーセント引き出すのです」
古の魔獣のような『鋼鉄の獣』は、今は無数のケーブルに繋がれ、静かにたたずんでいる。
「『終焉の獣』、アヌナークの力を」畳む
#アルファズル戦記
#灰になるまで君を呼ぶ
#語彙トレ2026、1ヶ月続きました。
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01/21-凝結
エンリケと別れて隊長室へ向かう。
『どうした、ディックス?』
相変わらずパーティションの向こうから話しかけてくる養父に、皇女にばれずに説明をするにはどうしたものかと思案する。
「凝結を超えて氷になった国からの、手回しだ」
LINKS式のアグレイシアの表現をして、遠回しの説明をする。皇女の護衛騎士が、宰相の放った手下の自作自演を潰して欲しいと願ったことだと。
『成程』
影がゆらゆら揺れる。
『恐らくその裏切り者は、暴走する獣の国にも通じているだろう』
マルディアスに在る、三大国家の最後のひとつを聞いた時、ディックスの視界はぐらりと傾いだ。
01/22-諧謔
『実に諧謔に満ちた筋書きではないか?』
炎が燃え盛る街だった。顔の見えない誰かが笑っている。自分は背の高い誰かの腕の中で震えている。この炎をもたらしたのが、自分だけではないことはわかっていた。
『引き裂かれた姉弟! やがて戦い合う運命! ○○○○○の潜在能力を引き出すのにうってつけの舞台装置ではないか!』
何か聞き取れない単語があった。顔の見えない誰かの手を、赤銀髪の少女が握っている。赤い瞳はぼんやりと曇り、どこを見ているのかわからない。
『おねえちゃん』
手を伸ばしても届かず、振り向かず、ふたりは炎の向こうに消えた。
01/23-寂寥
あの後何年かして、腕の主に連れられて、惨劇の街を見に戻った気がする。街は再興されること無く、灰が降り積もって、沈黙と寂寥感に包まれていた。
『お前の役目は重いものだが』
手を繋ぐ相手が言った。
『必ずこのマルディアスを救う鍵になる。そのために、強くなれ。LINKSとして、ヴァーンの子孫として』
見上げると、逆光で顔の見えない、黒髪を整髪料でなでつけた、背の高い男性に見つめられていた。
(……あれ?)
ふと疑問が走る。
(ギルって、どんな顔してたっけ)
途端に。頭の天辺から爪先まで、激痛が走った。
01/24-軋む
身体が痛い。全身の骨が軋むように悲鳴をあげている。
「ディー、ク?」
拙い呼びかけが、現実を離れていた意識の襟首を掴む。炎に溺れていたかのごとき感覚が、冷えてゆく。ぜえぜえと喘鳴しながら顔を上げれば。
(ティナ?)
一瞬幼馴染に見えた顔が、紫髪の女性に変わる。蒼の瞳が心配そうにこちらを覗き込んでいる。
『ディックス? 大丈夫か?』
曇り硝子の向こうの養父の声も聞こえる。
「……大丈夫」
ふたりに返し、片手で顔を覆って深い息をつく。
自分は誰かを忘れている。大事な何かを見落としている。まるで、機械の歯車が合わなくて軋んだ音を立てるかのように。
01/25-覚醒
意識が覚醒してくる。現実をはっきりと認識する。
「とりあえず、暴走する獣の国に潜れってことだな」
『お前は察しが良くて助かるよ』
ギルガメッシュが微かに笑う気配がする。呼吸にしては機械的ではあるが。
「その間、このお姫様はどうしようか」
安全を期すなら、同僚であるエンリケあたりに託すのが無難だ。しかし。
「レティ、ディークと、いく。ひとりは、いや」
レイティスは、ぎゅっとこちらの袖をつかんでくる。その姿は、実の父に実験体としか見られていなかった幼馴染の孤独を思い出させる。
「……わかったよ」
途端に、皇女がぱっと笑顔の花を咲かせた。
01/26-輪郭
間接照明が灯る仄暗い部屋に、二人の人物の輪郭が浮かび上がる。一人は本革張りのチェアに深々と腰かけて葉巻をふかし、もう一人はひざまずいて頭を垂れている。
「よく知らせてくれた」
煙と一緒に、笑いを含んだ声が吐き出される。
「LINKSに喧嘩を吹っ掛ける体の良い理由ができた。ギルガメッシュは本当に目障りだからな」
もう一度、深々と葉巻をふかして、でっぷりとした体躯が揺れる。
「ディックス・フリーダンを追え。国内は儂が押さえる」
「かしこまりました」
間接照明に、金髪が照らし出される。
「すべては父上の望むままに」
01/27-邂逅
灰の海だった。
明らかに普通の炎で焼かれたのではない、『なにか』が地面を切り裂き焦がした跡。容赦無く絶たれた命の群れ。
『暴走する獣の国』ジュメールに向かったディックス達の前に現れた町は、惨劇の跡だった。
レイティスが怯えたように腰にしがみつく力を強くする。ディックス自身も、頭の奥がちりちりする。
生き残りを探すだけ無駄だろう。バイクを走り出させようとした時。
「み、みんなの仇い!」
幼い声と、銃声ひとつ。
弾はあらぬ方向に飛んでいったが、皇女が喉の奥で悲鳴をあげる。
咄嗟に銃を抜く。目が合う。
少年との邂逅だった。
01/28-羨望
「お前」銃を下ろし、少年に問いかける。「この町の生き残りか」
「おまえたちがやったくせに!」
向けられる銃口は震えている。持ち方もなっていない。たとえまた引鉄を引いたところで、こちらに当たる確率は一パーセントにも満たないだろう。
「俺達は南……アサル=アリムから来た。この破壊の跡は北から来ている。この意味がわかるか、ガキ?」
少年がはっと目を瞠った。成程、愚かではないようだ。
「おまえについていけば、母ちゃんたちの仇を取れる?」
ディックスの強さにすがるように。羨望を覚えたかのように、緑の瞳が見つめてくる。
いつか自分もこの目をした。復讐の、目を。
01/29-席捲
かつてファルメア帝国がマルディアス大陸の支配者として席捲していた頃、『鋼鉄の獣』という機械兵器が続々と開発された。鋼の皮膚と石油の血液を持つそれらはしかし、神の領域に手を出したひとへの天罰か、悉くが暴走し、それが帝国の斜陽を招いたとされている。
獣達はLINKS――帝国最終防衛機構が多大な犠牲を払って殲滅したはずだ。
だが、この町の惨劇の起き方は、まるで。
「なあ、なあ、兄ちゃん!」
いつの間にか銃をしまって目の前まで来ていた少年の声が、ディックスを現実に呼び戻した。
「兄ちゃん、ジュメールに行くんだろ? おれも行きたい!」
01/30-炯炯
半眼で、少年を見下ろす。
「ガキ、俺達は遊びに行くんじゃねーんだ。これだけ簡単に命を奪う相手の懐へ飛び込むんだぞ」
「それでもだよ!」
炯炯とした瞳で、少年は食いついてくる。
「ディーク」
レイティスが、袖を引いた。
「この子を独りで残していくのは可哀想。独りは、哀しい」
まるで正気に戻ったかのように流暢に語る皇女に驚く。その目はまたすぐにとろんと幼稚に曇ったが。
がりがり頭をかく。これ以上お荷物を抱えるのは正直気が進まないが、孤児をここに残して死なれたら、寝覚めが悪い。
「ガキ」溜息をひとつ。「名前」
少年はぱっと表情を輝かせた。
「マオ!」
01/31-終焉
冷たい風が吹く山麓にある工廠の奥で、科学者達が慌ただしく走り回り、タブレットに指を滑らせている。
「先日の出力は三十パーセント。それでも十分な火力でした」
眼鏡の研究者の報告を背に、長身の壮年の女は、べっとり紅を塗った口を笑みに持ち上げる。
「まだまだですよ」
女はねっとりとした声音で、背後の研究者に言いつける。
「アサル=アリムとアグレイシアを制して、我がジュメールが唯一の王者となるには、百パーセント引き出すのです」
古の魔獣のような『鋼鉄の獣』は、今は無数のケーブルに繋がれ、静かにたたずんでいる。
「『終焉の獣』、アヌナークの力を」畳む
#アルファズル戦記
#灰になるまで君を呼ぶ
ひっさびさに数日間こねこねして、背景のある絵を描きました。
『雪が解けて春になる』下巻範囲より。
ファイル名が『鬼王を討つ』だったことから伝われこのニュアンス!!(本文とは色々齟齬があるのですが)

ゼファーにマンガパース使ってヒオウには使わなかったので、遠近法狂ってますねこれ?
これが今の私の精一杯!!畳む
#アルファズル戦記
#雪が解けて春になる
『雪が解けて春になる』下巻範囲より。
ファイル名が『鬼王を討つ』だったことから伝われこのニュアンス!!(本文とは色々齟齬があるのですが)

ゼファーにマンガパース使ってヒオウには使わなかったので、遠近法狂ってますねこれ?
これが今の私の精一杯!!畳む
#アルファズル戦記
#雪が解けて春になる
一月半ぶりのアクセサリ教室で、ひとつほぼ完成しました。
先生のフォローが無いとまだまだ自力で調整できないので、回数を重ねたいです。

バイカラーアゲートと真鍮のチャーム。買った時点で雪春のゼファーとヒオウをイメージしていたので、たぶん買ったのは去年の7月以降なんだけど、はっきりしない……。
霧の空から飛び降りてくるゼファーをヒオウが見上げてるようなかんじになったな……。畳む
先生のフォローが無いとまだまだ自力で調整できないので、回数を重ねたいです。

バイカラーアゲートと真鍮のチャーム。買った時点で雪春のゼファーとヒオウをイメージしていたので、たぶん買ったのは去年の7月以降なんだけど、はっきりしない……。
霧の空から飛び降りてくるゼファーをヒオウが見上げてるようなかんじになったな……。畳む
やっ と!!
告知できるところまで来ました。
くるみ舎こはく文庫様より、2/13に新作が出ます!
今回も本当に沢山のかたがたにご尽力いただき、配信の運びとなりました。
今、なんだか気が抜けたらしく、上手く言語化ができないのですが、TLを三作書いてきて、色々と学ばせていただいています。
どんなになっても、自分は創作を手離してはいけないな……と思い知るここ最近です。
告知できるところまで来ました。
くるみ舎こはく文庫様より、2/13に新作が出ます!
今回も本当に沢山のかたがたにご尽力いただき、配信の運びとなりました。
今、なんだか気が抜けたらしく、上手く言語化ができないのですが、TLを三作書いてきて、色々と学ばせていただいています。
どんなになっても、自分は創作を手離してはいけないな……と思い知るここ最近です。
暖かかったからか、人出が普段の冬ティアより多かった気がします。
去年の秋ティアでお会いできなかったかたがたにもお会いできましたし。
そして『雪が解けて春になる』と一緒に、アバロンの概念アクセがもらわれていったので、ワイヤーアクセをもう少し作ろうかと思います。5月の文フリで、アルファズルキャラ概念アクセをもっと持っていきたいなと。
ちょっと年度末から年度初めまで、私生活に余裕を割けなくなる期間があるので、今のうちにやりたいことをやっておきたいです。
しっかし、お夕飯にしゃぶしゃぶを食べたら、一晩で1kg増えたのにはびっくりしました。カレーにお肉がゴロッゴロで美味しくて、おかわりしちゃったのがあかんのだよ!