『灰になるまで君を呼ぶ』01/21~01/31 #語彙トレ2026、1ヶ月続きました。 前回→581 続き→606 続きを読む01/21-凝結 エンリケと別れて隊長室へ向かう。 『どうした、ディックス?』 相変わらずパーティションの向こうから話しかけてくる養父に、皇女にばれずに説明をするにはどうしたものかと思案する。 「凝結を超えて氷になった国からの、手回しだ」 LINKS式のアグレイシアの表現をして、遠回しの説明をする。皇女の護衛騎士が、宰相の放った手下の自作自演を潰して欲しいと願ったことだと。 『成程』 影がゆらゆら揺れる。 『恐らくその裏切り者は、暴走する獣の国にも通じているだろう』 マルディアスに在る、三大国家の最後のひとつを聞いた時、ディックスの視界はぐらりと傾いだ。 01/22-諧謔 『実に諧謔に満ちた筋書きではないか?』 炎が燃え盛る街だった。顔の見えない誰かが笑っている。自分は背の高い誰かの腕の中で震えている。この炎をもたらしたのが、自分だけではないことはわかっていた。 『引き裂かれた姉弟! やがて戦い合う運命! ○○○○○の潜在能力を引き出すのにうってつけの舞台装置ではないか!』 何か聞き取れない単語があった。顔の見えない誰かの手を、赤銀髪の少女が握っている。赤い瞳はぼんやりと曇り、どこを見ているのかわからない。 『おねえちゃん』 手を伸ばしても届かず、振り向かず、ふたりは炎の向こうに消えた。 01/23-寂寥 あの後何年かして、腕の主に連れられて、惨劇の街を見に戻った気がする。街は再興されること無く、灰が降り積もって、沈黙と寂寥感に包まれていた。 『お前の役目は重いものだが』 手を繋ぐ相手が言った。 『必ずこのマルディアスを救う鍵になる。そのために、強くなれ。LINKSとして、ヴァーンの子孫として』 見上げると、逆光で顔の見えない、黒髪を整髪料でなでつけた、背の高い男性に見つめられていた。 (……あれ?) ふと疑問が走る。 (ギルって、どんな顔してたっけ) 途端に。頭の天辺から爪先まで、激痛が走った。 01/24-軋む 身体が痛い。全身の骨が軋むように悲鳴をあげている。 「ディー、ク?」 拙い呼びかけが、現実を離れていた意識の襟首を掴む。炎に溺れていたかのごとき感覚が、冷えてゆく。ぜえぜえと喘鳴しながら顔を上げれば。 (ティナ?) 一瞬幼馴染に見えた顔が、紫髪の女性に変わる。蒼の瞳が心配そうにこちらを覗き込んでいる。 『ディックス? 大丈夫か?』 曇り硝子の向こうの養父の声も聞こえる。 「……大丈夫」 ふたりに返し、片手で顔を覆って深い息をつく。 自分は誰かを忘れている。大事な何かを見落としている。まるで、機械の歯車が合わなくて軋んだ音を立てるかのように。 01/25-覚醒 意識が覚醒してくる。現実をはっきりと認識する。 「とりあえず、暴走する獣の国に潜れってことだな」 『お前は察しが良くて助かるよ』 ギルガメッシュが微かに笑う気配がする。呼吸にしては機械的ではあるが。 「その間、このお姫様はどうしようか」 安全を期すなら、同僚であるエンリケあたりに託すのが無難だ。しかし。 「レティ、ディークと、いく。ひとりは、いや」 レイティスは、ぎゅっとこちらの袖をつかんでくる。その姿は、実の父に実験体としか見られていなかった幼馴染の孤独を思い出させる。 「……わかったよ」 途端に、皇女がぱっと笑顔の花を咲かせた。 01/26-輪郭 間接照明が灯る仄暗い部屋に、二人の人物の輪郭が浮かび上がる。一人は本革張りのチェアに深々と腰かけて葉巻をふかし、もう一人はひざまずいて頭を垂れている。 「よく知らせてくれた」 煙と一緒に、笑いを含んだ声が吐き出される。 「LINKSに喧嘩を吹っ掛ける体の良い理由ができた。ギルガメッシュは本当に目障りだからな」 もう一度、深々と葉巻をふかして、でっぷりとした体躯が揺れる。 「ディックス・フリーダンを追え。国内は儂が押さえる」 「かしこまりました」 間接照明に、金髪が照らし出される。 「すべては父上の望むままに」 01/27-邂逅 灰の海だった。 明らかに普通の炎で焼かれたのではない、『なにか』が地面を切り裂き焦がした跡。容赦無く絶たれた命の群れ。 『暴走する獣の国』ジュメールに向かったディックス達の前に現れた町は、惨劇の跡だった。 レイティスが怯えたように腰にしがみつく力を強くする。ディックス自身も、頭の奥がちりちりする。 生き残りを探すだけ無駄だろう。バイクを走り出させようとした時。 「み、みんなの仇い!」 幼い声と、銃声ひとつ。 弾はあらぬ方向に飛んでいったが、皇女が喉の奥で悲鳴をあげる。 咄嗟に銃を抜く。目が合う。 少年との邂逅だった。 01/28-羨望 「お前」銃を下ろし、少年に問いかける。「この町の生き残りか」 「おまえたちがやったくせに!」 向けられる銃口は震えている。持ち方もなっていない。たとえまた引鉄を引いたところで、こちらに当たる確率は一パーセントにも満たないだろう。 「俺達は南……アサル=アリムから来た。この破壊の跡は北から来ている。この意味がわかるか、ガキ?」 少年がはっと目を瞠った。成程、愚かではないようだ。 「おまえについていけば、母ちゃんたちの仇を取れる?」 ディックスの強さにすがるように。羨望を覚えたかのように、緑の瞳が見つめてくる。 いつか自分もこの目をした。復讐の、目を。 01/29-席捲 かつてファルメア帝国がマルディアス大陸の支配者として席捲していた頃、『鋼鉄の獣』という機械兵器が続々と開発された。鋼の皮膚と石油の血液を持つそれらはしかし、神の領域に手を出したひとへの天罰か、悉くが暴走し、それが帝国の斜陽を招いたとされている。 獣達はLINKS――帝国最終防衛機構が多大な犠牲を払って殲滅したはずだ。 だが、この町の惨劇の起き方は、まるで。 「なあ、なあ、兄ちゃん!」 いつの間にか銃をしまって目の前まで来ていた少年の声が、ディックスを現実に呼び戻した。 「兄ちゃん、ジュメールに行くんだろ? おれも行きたい!」 01/30-炯炯 半眼で、少年を見下ろす。 「ガキ、俺達は遊びに行くんじゃねーんだ。これだけ簡単に命を奪う相手の懐へ飛び込むんだぞ」 「それでもだよ!」 炯炯とした瞳で、少年は食いついてくる。 「ディーク」 レイティスが、袖を引いた。 「この子を独りで残していくのは可哀想。独りは、哀しい」 まるで正気に戻ったかのように流暢に語る皇女に驚く。その目はまたすぐにとろんと幼稚に曇ったが。 がりがり頭をかく。これ以上お荷物を抱えるのは正直気が進まないが、孤児をここに残して死なれたら、寝覚めが悪い。 「ガキ」溜息をひとつ。「名前」 少年はぱっと表情を輝かせた。 「マオ!」 01/31-終焉 冷たい風が吹く山麓にある工廠の奥で、科学者達が慌ただしく走り回り、タブレットに指を滑らせている。 「先日の出力は三十パーセント。それでも十分な火力でした」 眼鏡の研究者の報告を背に、長身の壮年の女は、べっとり紅を塗った口を笑みに持ち上げる。 「まだまだですよ」 女はねっとりとした声音で、背後の研究者に言いつける。 「アサル=アリムとアグレイシアを制して、我がジュメールが唯一の王者となるには、百パーセント引き出すのです」 古の魔獣のような『鋼鉄の獣』は、今は無数のケーブルに繋がれ、静かにたたずんでいる。 「『終焉の獣』、アヌナークの力を」畳む #アルファズル戦記 #灰になるまで君を呼ぶ 2026.1.31(Sat) 07:28:59 ひとりごと2026年,創作,小説 edit
#語彙トレ2026、1ヶ月続きました。
前回→581
続き→606
01/21-凝結
エンリケと別れて隊長室へ向かう。
『どうした、ディックス?』
相変わらずパーティションの向こうから話しかけてくる養父に、皇女にばれずに説明をするにはどうしたものかと思案する。
「凝結を超えて氷になった国からの、手回しだ」
LINKS式のアグレイシアの表現をして、遠回しの説明をする。皇女の護衛騎士が、宰相の放った手下の自作自演を潰して欲しいと願ったことだと。
『成程』
影がゆらゆら揺れる。
『恐らくその裏切り者は、暴走する獣の国にも通じているだろう』
マルディアスに在る、三大国家の最後のひとつを聞いた時、ディックスの視界はぐらりと傾いだ。
01/22-諧謔
『実に諧謔に満ちた筋書きではないか?』
炎が燃え盛る街だった。顔の見えない誰かが笑っている。自分は背の高い誰かの腕の中で震えている。この炎をもたらしたのが、自分だけではないことはわかっていた。
『引き裂かれた姉弟! やがて戦い合う運命! ○○○○○の潜在能力を引き出すのにうってつけの舞台装置ではないか!』
何か聞き取れない単語があった。顔の見えない誰かの手を、赤銀髪の少女が握っている。赤い瞳はぼんやりと曇り、どこを見ているのかわからない。
『おねえちゃん』
手を伸ばしても届かず、振り向かず、ふたりは炎の向こうに消えた。
01/23-寂寥
あの後何年かして、腕の主に連れられて、惨劇の街を見に戻った気がする。街は再興されること無く、灰が降り積もって、沈黙と寂寥感に包まれていた。
『お前の役目は重いものだが』
手を繋ぐ相手が言った。
『必ずこのマルディアスを救う鍵になる。そのために、強くなれ。LINKSとして、ヴァーンの子孫として』
見上げると、逆光で顔の見えない、黒髪を整髪料でなでつけた、背の高い男性に見つめられていた。
(……あれ?)
ふと疑問が走る。
(ギルって、どんな顔してたっけ)
途端に。頭の天辺から爪先まで、激痛が走った。
01/24-軋む
身体が痛い。全身の骨が軋むように悲鳴をあげている。
「ディー、ク?」
拙い呼びかけが、現実を離れていた意識の襟首を掴む。炎に溺れていたかのごとき感覚が、冷えてゆく。ぜえぜえと喘鳴しながら顔を上げれば。
(ティナ?)
一瞬幼馴染に見えた顔が、紫髪の女性に変わる。蒼の瞳が心配そうにこちらを覗き込んでいる。
『ディックス? 大丈夫か?』
曇り硝子の向こうの養父の声も聞こえる。
「……大丈夫」
ふたりに返し、片手で顔を覆って深い息をつく。
自分は誰かを忘れている。大事な何かを見落としている。まるで、機械の歯車が合わなくて軋んだ音を立てるかのように。
01/25-覚醒
意識が覚醒してくる。現実をはっきりと認識する。
「とりあえず、暴走する獣の国に潜れってことだな」
『お前は察しが良くて助かるよ』
ギルガメッシュが微かに笑う気配がする。呼吸にしては機械的ではあるが。
「その間、このお姫様はどうしようか」
安全を期すなら、同僚であるエンリケあたりに託すのが無難だ。しかし。
「レティ、ディークと、いく。ひとりは、いや」
レイティスは、ぎゅっとこちらの袖をつかんでくる。その姿は、実の父に実験体としか見られていなかった幼馴染の孤独を思い出させる。
「……わかったよ」
途端に、皇女がぱっと笑顔の花を咲かせた。
01/26-輪郭
間接照明が灯る仄暗い部屋に、二人の人物の輪郭が浮かび上がる。一人は本革張りのチェアに深々と腰かけて葉巻をふかし、もう一人はひざまずいて頭を垂れている。
「よく知らせてくれた」
煙と一緒に、笑いを含んだ声が吐き出される。
「LINKSに喧嘩を吹っ掛ける体の良い理由ができた。ギルガメッシュは本当に目障りだからな」
もう一度、深々と葉巻をふかして、でっぷりとした体躯が揺れる。
「ディックス・フリーダンを追え。国内は儂が押さえる」
「かしこまりました」
間接照明に、金髪が照らし出される。
「すべては父上の望むままに」
01/27-邂逅
灰の海だった。
明らかに普通の炎で焼かれたのではない、『なにか』が地面を切り裂き焦がした跡。容赦無く絶たれた命の群れ。
『暴走する獣の国』ジュメールに向かったディックス達の前に現れた町は、惨劇の跡だった。
レイティスが怯えたように腰にしがみつく力を強くする。ディックス自身も、頭の奥がちりちりする。
生き残りを探すだけ無駄だろう。バイクを走り出させようとした時。
「み、みんなの仇い!」
幼い声と、銃声ひとつ。
弾はあらぬ方向に飛んでいったが、皇女が喉の奥で悲鳴をあげる。
咄嗟に銃を抜く。目が合う。
少年との邂逅だった。
01/28-羨望
「お前」銃を下ろし、少年に問いかける。「この町の生き残りか」
「おまえたちがやったくせに!」
向けられる銃口は震えている。持ち方もなっていない。たとえまた引鉄を引いたところで、こちらに当たる確率は一パーセントにも満たないだろう。
「俺達は南……アサル=アリムから来た。この破壊の跡は北から来ている。この意味がわかるか、ガキ?」
少年がはっと目を瞠った。成程、愚かではないようだ。
「おまえについていけば、母ちゃんたちの仇を取れる?」
ディックスの強さにすがるように。羨望を覚えたかのように、緑の瞳が見つめてくる。
いつか自分もこの目をした。復讐の、目を。
01/29-席捲
かつてファルメア帝国がマルディアス大陸の支配者として席捲していた頃、『鋼鉄の獣』という機械兵器が続々と開発された。鋼の皮膚と石油の血液を持つそれらはしかし、神の領域に手を出したひとへの天罰か、悉くが暴走し、それが帝国の斜陽を招いたとされている。
獣達はLINKS――帝国最終防衛機構が多大な犠牲を払って殲滅したはずだ。
だが、この町の惨劇の起き方は、まるで。
「なあ、なあ、兄ちゃん!」
いつの間にか銃をしまって目の前まで来ていた少年の声が、ディックスを現実に呼び戻した。
「兄ちゃん、ジュメールに行くんだろ? おれも行きたい!」
01/30-炯炯
半眼で、少年を見下ろす。
「ガキ、俺達は遊びに行くんじゃねーんだ。これだけ簡単に命を奪う相手の懐へ飛び込むんだぞ」
「それでもだよ!」
炯炯とした瞳で、少年は食いついてくる。
「ディーク」
レイティスが、袖を引いた。
「この子を独りで残していくのは可哀想。独りは、哀しい」
まるで正気に戻ったかのように流暢に語る皇女に驚く。その目はまたすぐにとろんと幼稚に曇ったが。
がりがり頭をかく。これ以上お荷物を抱えるのは正直気が進まないが、孤児をここに残して死なれたら、寝覚めが悪い。
「ガキ」溜息をひとつ。「名前」
少年はぱっと表情を輝かせた。
「マオ!」
01/31-終焉
冷たい風が吹く山麓にある工廠の奥で、科学者達が慌ただしく走り回り、タブレットに指を滑らせている。
「先日の出力は三十パーセント。それでも十分な火力でした」
眼鏡の研究者の報告を背に、長身の壮年の女は、べっとり紅を塗った口を笑みに持ち上げる。
「まだまだですよ」
女はねっとりとした声音で、背後の研究者に言いつける。
「アサル=アリムとアグレイシアを制して、我がジュメールが唯一の王者となるには、百パーセント引き出すのです」
古の魔獣のような『鋼鉄の獣』は、今は無数のケーブルに繋がれ、静かにたたずんでいる。
「『終焉の獣』、アヌナークの力を」畳む
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